【ライブエンタメの新世代|変化の起点編 #4】 なぜ今、アーティストは“世界に届くライブ”を求めるのか。ストリーミング時代の新常識
アーティストの目線は、すでに“国内”の先にある
前回は、ライブ会場がもはや“場所貸し”ではなく、体験を設計する存在へと変わっていることを見てきました。 では、なぜそこまで会場や運営側に新しい役割が求められるようになっているのでしょうか。
その理由のひとつが、アーティスト自身の目線の変化です。 かつては、アーティストの成功は国内でのヒットや大規模会場の動員で語られることが一般的でした。 もちろん今もそれは重要です。しかし、ストリーミングの普及によって、楽曲が届く相手は一気に広がりました。
今、アーティストにとってファンは“国内の観客”だけではありません。 世界中で曲を聴き、SNSで反応し、配信を見て、ライブに関心を持つ存在になっています。
ストリーミングは、ライブの意味まで変えた
経済産業省は、ストリーミング時代を迎えてエンターテイメント業界の外部環境が大きく変化していること、 日本の音楽産業の拡大には海外展開が不可欠であること、さらにSNS・データ分析・デジタルマーケティングの重要性が高まっていることを整理しています。 世界全体でも、IFPIによると2024年の録音音楽収益のうち69%をストリーミングが占めています。
つまり今は、音楽が国境を越えて届くこと自体は特別ではなく、むしろその先で、どう関係を深めるかが問われる時代です。 この変化は、ライブの意味そのものにも影響しています。
ライブは、ただその場の観客に向けた公演ではありません。 配信、SNSでの拡散、コミュニティ形成、継続的なファン接点の起点にもなっています。 言い換えれば、ライブはもう“国内興行”だけでは終わらないのです。
デジタルとリアルは、いまや分かれていない
この流れを象徴しているのが、JASRACの2024年度事業報告です。 徴収額は約1,446億円で過去最高を更新し、その背景としてインタラクティブ配信と演奏等の伸びが挙げられています。 これは、デジタルとリアルが別々に伸びているという話ではありません。
配信で広がり、ライブで熱量を深める。 その両輪で価値が大きくなっている、ということです。
つまりアーティストにとってライブは、 単に公演を成立させる場ではなく、世界のファンとつながる場でもあります。 会場や運営側に求められる提案も変わっている アーティストのニーズが変われば、支える側に求められるものも変わります。
・ただ会場を提供するだけ。 ・ただ公演を回すだけ。 ・ただチケットを売るだけ。
それだけでは、十分ではなくなってきています。
いま問われているのは、
・どうすれば世界に届く体験にできるのか ・どうすればライブの価値をその日で終わらせず、次の接点につなげられるのか ・どうすればファンとの関係を深め、新しい収益機会をつくれるのか
という視点です。
この変化は、ベニュー運営だけの話ではありません。 配信プラットフォームのようなディストリビューションチャネル全体、さらにマネジメント事務所まで含めた、 アーティストを支えるあらゆるプレイヤーに対して、「アーティストに何を提案できるか」が問われる時代になっています。
“売る”だけではなく、“つながる”設計が必要になる
ここで重要になるのが、アーティストがファンとの関係をどう持つか、という視点です。 従来の発想では、ライブはチケットを販売して終わるものでした。けれど今は、その考え方だけでは足りません。
海外では、D2F(Direct to Fan)の考え方や、グローバル配信プラットフォームとの連携が広がっています。 これは、アーティスト自身がデータを取り戻し、世界中のファンとより直接的につながりながら、 ライブ会場での限定体験やVIPパッケージのような高付加価値の接点まで設計していく考え方です。
つまりライブの価値は、 “売ること”だけでなく、“つながり続けること”まで含めて考えられるようになっているのです。 ベニューも“場所”から“体験をプロデュースする存在”へ さらに今は、デジタルやAIを活用した新しいアプローチも広がっています。
たとえば、 ・ダイナミックプライシング ・ファンコミュニティアプリを通じた購買体験のシームレス化 ・ライブストリーミングを組み合わせたハイブリッド興行 といった動きです。
こうした変化が示しているのは、ベニューやプラットフォーマーが、従来の「場所貸し」から、 “グローバルな体験をプロデュースする存在”へと変わりつつあるということです。 ライブハウス運営やアリーナ運営の価値も、単に会場を管理することではなく、アーティストやファンにどんな体験を提案できるかへと広がっています。
ここには、業界を変える大きな余地がある
この変化は、アーティストにとって大きいだけではありません。 ライブエンターテイメント業界で働く側にとっても、明確なチャンスです。 アーティストは、グローバルなファンとつながる仕組みや、新しい収益モデルを求めています。 そこには、これまでの延長線だけでは埋まらない大きな余白があります。
だからこそ今、他業界で培ったビジネススキルや、デジタル、AI、マーケティングの知見を持つ人材が活きる余地があります。 アーティストに対して、グローバルなファンエンゲージメントや新しい収益モデルを能動的に提案し、次世代のライブ体験を一緒につくっていく。 そうした役割を担うベニューオペレーターや関連職種は、単なる裏方ではなく、これからのエンターテイメント業界を前に進める存在になっていきます。
でも、業界の仕組みはその変化に追いついているのか
一方で、ここには難しさもあります。
アーティストが求めるものは確実に変わっています。 市場も伸びています。 ニーズもアップデートされています。
しかし、その変化に対して、業界の仕組みが十分追いついているかというと、まだそうとは言い切れません。 役割分担や慣行は、昔のまま残っている部分もあります。
つまり今のライブエンターテイメント業界は、 成長しているのに、構造はまだ古い部分がある状態です。 ここに、いまの業界の面白さと難しさの両方があります。
では、なぜライブエンターテイメント業界のビジネスモデルは変わりにくいのでしょうか。 市場は伸びている。 ニーズも変わっている。 それでもなお、構造的な課題が残り続けるのはなぜか。
次回は、成長市場の中に残る“変わりにくさ”に注目しながら、ライブエンターテイメント業界のビジネスモデルを整理します。