【ライブエンタメの新世代|デジタルシフト編 #15】国内から世界へ。人口減少時代のグローバル戦略とデータ活用

アーティストの目線は、すでに「世界」にある

前回( 14)では、SNSが音楽との出会い方を変え、日本の楽曲も国境を越えて発見される環境が広がっていることを見ました。 では、海外で聴いてくれる人が見えるようになったとき、アーティストや音楽ビジネスは何を変える必要があるのでしょうか。

結論から言うと、これからの成長を考えるうえで「世界のどこにファンがいるのか」を知り、そのデータを配信、プロモーション、ライブへつなげる視点がますます重要になります。

なぜ今、海外市場を見る必要があるのか

日本では人口減少が続く一方、ストリーミングやSNSによって、楽曲を届けられる範囲は国内市場の外まで広がりました。 国内だけで完結する前提ではなく、海外のリスナーやファンも含めて成長を設計できる環境が整いつつあります。

経済産業省は「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書」で、ストリーミング時代における外部環境の変化を整理し、 日本の音楽産業の成長に向けて海外展開やデジタルマーケティング、データ活用などの重要性を示しています。(出典:経済産業省)

さらに経済産業省が2026年に公表した調査では、日本の音楽産業の2024年の海外売上は、 訪日外国人による消費を除いて1,239.5億円、含めると1,516.7億円と推計されています。海外展開は、すでに具体的な市場として可視化され始めています。

データが「どこでライブをするか」を変える

グローバル展開で大きな武器になるのが、リスナーデータです。

Spotify for Artistsでは、アーティスト側がリスナーの国や都市、年齢層、楽曲の聴かれ方などを確認できます。 Spotify自身も、こうしたデータはプロモーションだけでなく、「世界のどこでツアーを行うか」を判断するために活用できると説明しています。(出典:Spotify for Artists)

これまで海外公演には、「この地域なら集客できそうだ」という経験やネットワーク、予想に基づく判断が大きく影響していました。 そこにリスナーデータが加わることで、

・どの国・都市にリスナーが多いか ・どの楽曲がどの地域で支持されているか ・どの市場でプロモーションを強めるべきか ・どの規模の会場から挑戦するか

といった判断を、より具体的な根拠を持って考えられるようになります。

配信データとライブは、別々のものではない

ここで重要なのは、ストリーミングのデータが「配信のためだけの数字」ではないことです。

SNSで楽曲が発見される。ストリーミングで継続して聴かれる。どこにファンがいるかが見える。その地域でライブを開催し、リアルな体験を通じて関係を深める。

デジタルとライブがつながることで、海外展開は「作品を世界に配信すること」から「世界のファンとの関係を育てること」へ広がっていきます。

だからこそ求められる人材

この変化は、音楽業界の仕事にも新しい入口をつくります。

・データ分析から市場の可能性を読み解く力 ・デジタルマーケティングで海外のファンとの接点をつくる力 ・国や文化の違いを踏まえてコミュニティを育てる力 ・配信で得たデータをライブや事業企画に接続する力

こうした力は、IT、マーケティング、事業企画、海外事業など、他業界で培った経験とも相性の良い領域です。

まとめ

音楽が国境を越えて届く時代には、「世界へ配信すること」だけでなく、「世界のどこにファンがいて、次にどんな体験を届けるか」をデータから考えることが重要になります。

そして、いつでもどこでも同じ音源にアクセスできるようになったからこそ、逆説的に価値が高まっているものがあります。 それが、その場所、その瞬間でしか味わえない「ライブ」です。

次回は、デジタル時代にライブの価値がなぜ高まるのかを、「一体感」「リアリティ」「唯一無二性」という視点から考えます。