【ライブエンタメの新世代|ベニュー編 #17】ベニューはなぜ「貸館」を基本にしてきたのか。貸館モデルの合理性と、これからの可能性
会場(ベニュー)は、長く「貸館」を基本にしてきた
前回( 16)では、デジタル化が進むほどライブが「その場限りの体験」として価値を高め、それを受け止める会場の役割が大きくなっていることを見ました。 ここからは、会場そのもののビジネスがどう変わろうとしているのかという話を見ていきます。
日本のライブハウス経営やホール・アリーナ運営の多くは、「貸館(会場を主催者に貸し出す運営)」を基本に発展してきました。 もちろん、自主企画やブッキングに力を入れ、自ら公演をつくってきたライブハウスなども少なくありません。
貸館の流れはシンプルです。
・施設を建てる ・イベント会社やプロモーターに一定の料金で貸し出す ・ライブの中身や当日の運営は、借りた側が責任を持つ
この仕組みの最大のメリットは、会場側がリスクを避けられることです。
ライブは「当日の集客」や「天候」によって売上が大きく左右されるハイリスクなビジネスです。 しかし、会場側は「利用料」として決まった料金をもらう契約にすることで、公演がヒットしても外れても、安定した収入を得ることができました。
この合理性があったからこそ、日本全国にたくさんの会場が建てられ、ライブ産業が成長できたのです。
一方で、貸館の仕組みだけでは届きにくい価値もある
ライブの価値が「ただ行く場所」から「最高の体験をする場所」へと変わってきたことで、この仕組みだけでは届きにくい部分も見え始めています。
●会場側の収入が「利用料」の範囲にとどまる 公演がどれだけ大盛況でも、会場側に入るのは基本的にあらかじめ決めた利用料です。 体験の価値が上がっても、それが会場の収益に反映されにくい構造になっています。
●「お客さんの体験」を途中で見失ってしまう 会場を貸し出す形だけだと、入場までの混雑、グッズの並び時間、飲食の快適さといった「来場者の体験全体」に会場側が関わりにくくなります。 結果として、せっかくのライブ体験にストレスが生まれてしまうことがあります。
●ファンが「誰なのか」というデータが残らない チケットを買ったファンが誰で、どんな行動をしたのかというデータは、チケット会社や主催者に残ります。 会場側にはデータが残らないため、「次回はこんな工夫をしてファンに喜んでもらおう」という改善ができません。
まとめ
日本のライブ会場は、リスクを避けて安定して運営するために「貸館」という形で成り立ってきました。 一方で、ライブが「最高の体験」へと進化している今、貸館の仕組みだけでは、会場側の収益にもファンの満足度にも伸ばしきれない部分が出てきています。
これから大切なのは、この安定した土台を活かしながら、会場がライブ体験そのものをプロデュースする役割も担っていくことです。
次回からは、この「貸館」の土台の上で、会場がどうやって新しい価値やビジネスを作っていくのかを具体的に見ていきます。