【ライブエンタメの新世代|ベニュー編 #19】データと街。先進アリーナは「体験」をどう設計しているか
体験は「なんとなく」では良くならない
前回( 18)では、ベニューの収益を利用料中心から何通りにも広げるという話を見ました。 では、その土台となる「ライブ体験そのもの」は、どうやって良くしていくのでしょうか。
ここで力を発揮するのが、データとテクノロジー、そして会場の「外側」とのつながりです。
来場者の体験を、つながった一本の線として捉える
先進的なアリーナに共通しているのは、「お客さんの体験を細切れにしない」という考え方です。
チケットを買う。会場へ向かう。入場する。席につく。飲み物を買う。ライブを観る。帰る。
これまでは、これらがそれぞれ別の会社やシステムによってバラバラに提供されていました。 お客さんから見ればひと繋ぎの一日なのに、運営側から見ると情報がバラバラだったのです。
海外ではベニューを「一帯」として設計する考えが進んでいる
ロンドンの The O2 がその例です。 2,800人収容のライブスペース(indigo at The O2)、複数スクリーンのシネマ、屋根の上を歩くアトラクション、26のバー・レストランが、アリーナと同じ敷地に置かれています。 2007年の開業以来、5,000万人以上が訪れました。(出典:AEG Worldwide「The O2」)
また、チケット購入から会場内の飲食、ラウンジの利用までをひとつのアプリでつなぎ、来場者の行動を一元的に把握しようとする取り組みも広がっています。 こうして初めて、「誰が、いつ、どこで、何を体験したか」が見えるようになります。
国内でも、同じ動きが始まっている
日本でも、アリーナ単体ではなく街区として構想される施設が出てきています。
2023年9月に開業したKアリーナ横浜は、20,033席の音楽に特化したアリーナです。 ただ、計画の単位はアリーナではなく、ホテル(ヒルトン横浜)とオフィス(Kタワー横浜)を含む街区全体が「ミュージックテラス」として開発されています。(出典:横浜市観光情報サイト)
2024年に竣工したLaLa arena TOKYO BAY(千葉県船橋市)も、発想は同じです。 三井不動産とMIXIによる最大約11,000人収容の多目的アリーナで、同じ南船橋エリアには「三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO BAY」があります。 イベントと商業施設の連携を図り、「スポーツ・エンターテインメントの力を活用した『感動』のある街づくり」を進めてきたとしています。(出典:三井不動産・MIXI プレスリリース(2024年4月8日))
数万人が集まる日、その人たちは会場の中だけで過ごすわけではありません。 食事をし、買い物をし、泊まり、移動します。 この2つの事例に共通しているのは、その一日を会場の外まで含めて設計している点です。
・会場と周辺施設をまたいだ回遊の設計 ・交通や宿泊との連携による滞在時間の延長 ・地域経済への波及を前提にした事業計画
ベニューが「都市のハブ」として語られるようになったのは、この視点が入ってきたからです。 まだ数は多くありませんが、新しく計画される施設ほど、この前提で設計される傾向にあります。
まとめ
体験価値のプラットフォームを支えているのは、感覚ではなく設計です。
来場者の一日を分断せずにつなぎ、そこで得たデータをベニューの改善やアーティストに還元し、さらに熱狂を会場の外の街へと広げていく。 国内外の先行事例が示しているのは、その一連の設計を誰かが担っているという事実です。
次回は、ベニューはそもそも誰のために存在するのか。そして、新しく生まれた価値をアーティストにどう返すのか。 次世代のベニューオペレーターに求められる役割を考えます。